ケニー・ドーハムといえば、プレスティッジ盤『Quiet Kenny』に代表されるバラード演奏を思い浮かべると思うけど、それだけがケニーではない。その対極に位置する作品が1963年録音の本作。ここには躍動感みなぎる元気印のケニーがいる。
1963年といえばスタン・ゲッツのボサノヴァが評判になりはじめたころで、ケニーもこの年ブラジルを訪れ、すっかりブラジル音楽に魅せられていた。その結果、本作ではサンバ調のタイトル曲をはじめ、ブラジル色豊かな演奏を賑やかに繰り広げている。力強く開放的なドーハムのソロが素晴らしいが、同時にジョー・ヘンダーソンのエネルギッシュなプレイにも圧倒される。マイルス・バンドに参加する直前のハービー・ハンコックとトニー・ウィリアムス、当時まったくの新人だったジョー・ヘンなど、参加メンバーも興味深い。ちなみにハービーとトニーがマイルス・バンドに参加したのはこの録音の1か月後。そしてジョー・ヘンに関しては本作が初レコーディングだった。(市川正二)

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